毛髪について

現在では、自毛植毛手術の認知度もあがり、AGAに関するTVCMもよく見かけます。そのため、何となく、髪についての研究が十分に進んでいるように感じます。しかし、実は、髪の生え変わりが継続される仕組み、脱毛のメカニズムなど厳密に言えば、髪についてまだまだ解明されていないことがたくさんあります。

 

そもそも頭髪は、10万本程度生えているといわれています。猿人からの進化の過程で、体毛が薄くなる一方、頭部にはそれだけの毛髪が残ったのです。

 

理由は、様々考えられていますが、いくつかの役割のためだとされるのが一般的です。

 

一つ目役割として、「頭部への物理的な衝撃への保護」が挙げられます。頭部は、頭蓋骨でおおわれているものの、他の部位と比べ脂肪や筋肉が少なく、毛髪は、衝撃保護の緩衝材として役立っています。

 

二つ目としては、「有害物の排泄」の役割もあります。この役割は、あまり知られていないかもしれませんが、毛髪には、水銀やカドニウム、ヒ素など体にとって有害な重貴金属を取り込んで、体外に排出させる働きがあります。禁止薬物などの使用者の検査で毛髪が使われるのは、この役割があるからです。

 

三つ目としては、「紫外線からの保護」が挙げられます。強い紫外線を浴び続けて、日焼けを通りこして火傷に近いダメージを受けたことがある方もいるかもしれませんが、それほど強い日差しでなくても、紫外線を直接浴び続けると皮膚がんのリスクが高まります。日本人は黒髪ですが、黒は紫外線を吸収効果が高い色で、日差しの強いエリアは、黒髪、弱いエリアは、金髪になるという研究もあります。

 

四つ目は「体温調節機能」が挙げられます。日よけでの温度調節は、「紫外線からの保護」の部分と重なる部分もありますが、それ以外の機能として、髪の一本一本に空気が含まれていて、それにより空気の層を形成し、体温の保持に役立てます。

 

五つ目は、「ファッションとしての役割」が考えられます。これは、髪型や髪色を自分に似合うよう変えることで、他者に良い印象を与えることです。サケが繁殖期に体色を変化させたり、繁殖期の鳥類が鮮やかな羽を広げたりするのと同じようなことなのかもしれません。

このような役割を持つ髪の毛ですが、先に述べたようにまだまだ十分に研究が進んでいるとは言えません。しかし、新たな技術の開発も進んでいます。2018年の理化学研究所と協力企業の発表では、髪の毛を生み出す毛包という小さな器官の研究が発表されています。この研究では、毛包のもととなる毛包原基を研究チームで作成し、それを毛のないマウスに移植したところ、毛包が再生し、毛髪が生えてくるというものです。これはマウスでの実験ですが、実際に毛髪をはやすことに成功したわけで、大きな第一歩と言えます。ヒトでの臨床研究の結果は、まだ報告されていませんが、成功すれば、毛髪の悩みは一気に解決されるかもしれません。

移植密度について

あまり考えることではないかもしれませんが、一般の方の髪の密度は、1平方センチあたり、150本~200本と言われています。これは人種によって変わり、東洋人より欧米人の方が多いと言われています。

髪は毛穴から生えているわけですが、一つの毛穴から1本~3本生えています。ですから、だいたい頭皮には1平方センチあたり、80~100の毛穴があるわけです。

自毛植毛手術では、毛髪を毛穴ごと組織(毛穴の奥にあって表面に見えない髪を作り出すシステム一式)を採取し、薄く見えやすい生え際などに移植する手術です。この毛穴ごと採取したひとまとまりの組織をグラフト(=株)と呼んでいます。

 

もし、一般の方と同じ密度で毛髪を移植するなら、1平方センチあたり、80グラフト~100グラフトを移植すると、大まかに言えば、同じようになるというわけです。

 

しかし、多くの専門クリニックでは、移植する場所の周りの髪へのマイナスの影響を考慮し、25~30株を移植しています。通常の方の25%~33%程度しか移植していないわけです。だから、手術が成功してもスカスカに見えるのは、当たり前です。

 

 

これはあくまで経験則になりますが、自毛植毛手術を受ける方が、100%満足と言えないまでも、これなら様子を見ても良いかと考えるレベルの髪密度を想定すると、1平方センチあたり、40株~50株は移植しなければならないと思います。つまり、通常の50%~60%です。

 

ただ、単純にこの密度で移植したら、前述したように移植した場所の周りの髪へ悪影響を及ぼし、周りの髪がぬけてしまったり、移植した髪が定着しなかったりしてしまいます。

 

そのため、通常の方の50%~60%密度で、安全に移植するためには、医師をはじめとしたスタッフや医療用具等の技術改善が必要です。ですから、どのくらいの密度で自毛植毛手術を行うかは、専門医にとっても、かなりデリケートな問題と言えます。

 

そういったところに注意して、専門クリニックの医師の話を聞いてみると、受診したクリニックの考え方や技術力をより深く理解することができるかもしれません。

植毛と増毛のメリット・デメリットとは

“植毛”というと自分自身の毛髪を薄い部分に移植する《自毛植毛手術》とナイロンなどでできた人工の毛髪を薄い部分に植え込んでいく《人工毛植毛》に分かれます。

自毛植毛手術が現在のように認知・普及していない頃は、この人工毛髪を植え込んでいく人工毛植毛が一般的だったのですが、現在はこの人工毛を使った植毛を行うところは少なくなりました。人工毛髪を使った植毛は自毛植毛とは異なり、その効果をすぐに実感できるというメリットがあり、植毛する本数も希望すれば一度に多くの本数を植えることができます。また、長さや色も自由に選べるということもメリットと言えます。

ただ、この人工毛植毛はデメリットもあります。ポリエステルやナイロンといった合成繊維でできた人工毛髪は頭皮に植え込んだ場合、人体が異物と判断し拒否反応を起こしてしまいます。これは人体に侵入してくる異物から体を守ろうとする免疫システムが働くからです。そうして体が拒否反応を起こすとその異物を体外に出そうとし、頭皮が腫れるといった炎症を起こしてしまいます。そうなると移植した人工毛は抜けてしまいます。きれいにすべて抜けてしまうのであればいいのですが、人工毛髪は頭皮のなかに簡単に抜けてしまわないようにしっかりと結びつけているので、途中で切れてしまったりした場合結びつけている根元の部分は頭皮の中に残ったままになってしまいます。そうなると頭皮の炎症が治まらないということになります。また、人間の毛髪は毎日伸びることで毛根の皮脂や汚れを押し出して清潔にできるのですが、人工毛は成長しないため植え込んだ部分に皮脂や汚れがたまってしまい細菌が繁殖してしまいます。そうなると頭皮が細菌に感染し化膿し炎症を起こしてただれてしまいます。そうなると頭皮に残った人工毛はもちろん、根元に残ってしまった結んだ部分も取り出さなくては化膿や炎症は続き頭皮が徐々に硬くなり、“夏みかん”の皮のようなボコボコの状態になってしまうのです。

そうしたこともあり、植毛の先進国と言われているアメリカでは人工毛髪を使った植毛は禁止されています。

 

一方、自毛植毛にもメリット・デメリットがあります。以前のコラムにも人工毛植毛と自毛植毛のコラムで説明しているので簡単に説明すると

メリットは

  • 自分自身の髪の毛を移植するので拒否反応が起こらない
  • 移植した毛髪は半永久的に生え続ける
  • 仕上がりが自然で違和感がない
  • パーマやカラーリングができる
  • 定期的なメンテナンス・ランニングコスト必要ない

というところ。

 

 

デメリットは

  • 外科的手術であるということ
  • 手術費用が高額である
  • 移植した髪の毛が生え揃うまでに時間がかかる(8ヶ月〜1年)
  • 移植するための移植毛を採取するため後頭部を刈り上げる必要がある※

※クリニックによっては後頭部を刈り上げずに採取する手術方法もある

 

植毛手術の技術向上により、仕上がりの自然さ、そして何より自分自身の毛髪が蘇るということで、現在は“植毛”というとこの《自毛植毛》が主流と言えます。

 

もう一つの薄毛の解消法として挙げられるのが《増毛法》です。以前はテレビコマーシャルではカツラの広告が多かったのですが、このカツラメーカーが主力として押し出しているのがこの《増毛法》です。メーカーにより呼称は変わりますが、行われていることはほとんど同じと言えるもので、現在残っている自分の毛髪に人工毛髪を結びつけるタイプの結着増毛が多いようです。あとは人工毛髪を粘着シートのようなものを使って貼り付けるタイプもありますが、基本的に残っている部分の毛髪をきれいに剃らなくてはならないということが必要になるタイプです。

 

増毛法のメリットですが、その効果が直ぐに実感できるということです。長さも希望に合わせられますし、自分の毛髪の色に合わせて増やすこともできます。また、カツラのようにムレることもないというのもメリットと言えるかもしれません。

 

デメリットは薄毛が進行しすぎて結着の元となる髪の毛がない場合はできないという点です。髪の分け目や前頭部などにまだ既存毛が存在している部分には最適ですが、生え際から前頭部にかけて髪が存在していないといった部分にはできません。

もう一つのデメリットは、定期的なメンテナンスが必要ということになります。結着させている自身の髪の毛が成長し伸びると、その伸びた分だけ結びつけている人工毛を下げなくてはならないという作業が必要になります。つまり使い続けるだけランニングコストがかかるというわけです。ただ、薄毛が進行するとこの増毛法も利用できなくなります。

そこがこの増毛法の大きなデメリットなのかもしれません。

 

自毛植毛、増毛法いずれを選択するにしても、こうしたメリット・デメリットを考慮し、自分のライフスタイルや自身の薄毛のタイプに合った最適な薄毛解消法を選ぶのがいいのではないでしょうか。

ロボット植毛における自毛植毛の未来

ここ数年、医療界で広がりつつある手術支援ロボット(ダヴィンチ)を使った手術。この手術支援ロボットを使った前立腺癌や肺がん、膀胱癌、胃がんなどの手術は、皮膚切開が小さいため患者の体への負担が軽減され手術後の痛みも少なく、術後の回復が早いというのが大きな特徴で2018年には保険適応にもなり、今後更に増えることが予想されます。そうしたテクノロジーを導入したAiを搭載したロボットによる自毛植毛の手術が登場してきました。

これまでの自毛植毛手術は医師と看護師の熟練された技術で行われるチーム体制の手術方法で、後頭部の毛髪を皮膚ごと切り取り株分けし移植していく《FUT》と後頭部の皮膚を切らずに移植毛(グラフト)を1本ずつ吸引採取する《FUE》という2種類がありました。

このアメリカで誕生したAiを搭載したロボットを使用した自毛植毛手術は、コンピューターが採取する後頭部の画像をモニタリングチェック、コンピューターが髪の角度や密度、本数などを算出し毛根が切断されないようにグラフトを採取、医師が移植ホールを作り移植していくという方法です。簡単にいうと高い技術を必要とした後頭部からの移植毛の採取を、コンピューター制御によってより正確に短時間で多くの本数を採取し移植するというわけです。

 

しかし、このロボット植毛は本当に万能なのかという疑問があります。実際にこのロボット植毛と同じ方法に近いFUEという方法に比べると、後頭部から移植するためのグラフトを吸引採取する際に使用される筒状のパンチは、通常口径が0.85mm〜1,0mmに対しロボット植毛の場合口径1.2mmと大きなサイズのパンチを使用しています。つまり、後頭部のグラフトをくり抜いて採取した部分に丸い疵痕が残るということです。通常のFUEによる採取方法でも丸い点のような疵痕は残るのですが、口径が0.8mmですので小さな丸い点状の傷なのですが、ロボット植毛の方が口径1.2mmと大きい為、大きな丸い疵痕が残ってしまいます。それと、手術後の仕上がりの満足度が低いということです。他の植毛クリニックへ“ロボット植毛を受けて満足できない方の相談が多い”ということです。

話を聞くと生え際のラインが不自然、植毛した部分の密度がスカスカで、植毛したとは思えないなど。他の方法に比べ人件費が少なく済むため費用はかなり安い設定になっているクリニックが多いようで、費用の安さとコンピューターで植毛ができるという理由で選ばれる方が多いそうです。

生え際や密度、仕上がりの自然さについては、美的センス、高い移植技術を持ち合わせた熟練の医師による手術に比べ、まだまだロボットの性能面では自然さ、美しさを実現できるまでには至っていないように思えます。手術支援ロボットによる手術は、患者の体への負担が少ない正確な治療ができるということが最大のメリットです。

将来更に改良されAiで様々な情報を学習、アップデートされた植毛ロボットが登場し、人の手による自毛植毛手術と比べても遜色ない仕上がりが実現すれば、自分の希望通りの仕上がりが、今よりももっと安い費用で受けられるかもしれません。ですが、今のところ豊富な経験と熟練された技術・美的センスを持つ医師には敵わないのではないでしょうか?