移植毛(グラフト)採取時間について

自毛植毛手術を行う専門クリニックの中には、手術時間の短さや短時間での移植毛の大量採取をことさらに誇示するクリニックがあります。

 

確かに移植毛を短時間で大量に採取できれば、大きなメリットも存在します。例えば、患者への体の負担を考えれば、短時間で手術が行える方が良いと言えます。また、ドナーロスという観点からもメリットもあります。

 

患者さんとお話した際、ある専門クリニックでは、採取した移植毛の内、20%は生着不良、つまりドナーロスとなるというふうに言われたそうです。これは、自毛植毛手術で1000グラフト移植したら、200グラフトは生着しないということです。

 

このドナーロスの原因は、様々ですが、その原因のひとつとして、移植毛の採取から移植までの時間が挙げられます。通常、採取した移植毛は、移植されるまでの間、専用の保存液等で保管されます。しかし、保存液にいれてあれば、問題がないわけではなく、どうしても時間が経つほど移植毛のヴァイアビリティ(≒生存力)が低下してしまいます。

 

テレビドラマなどで時折、心臓などの臓器移植の話が扱われることがあります。そんなときは大抵ドナーが見つからないことだったり、移植までのタイムリミットだったりがドラマのキーになります。ですから、移植手術に時間が大切な要素だということは容易に想像できるかと思います。

 

移植毛のヴァイアビリティは、人それぞれですし、保存方法も様々ありますので、どのくらいの時間が経つと生着率が何%落ちるなどと詳細なデータがあるわけではありません。しかし、移植毛の採取から、移植までの時間が長くなるほど移植毛の生着率が低下することは間違いありません。

そういう観点から言えば、移植毛を短い時間で採取することは意味があることと言えるのかもしれません。

しかし、先にも述べたように移植毛の生着率を下げる原因は、採取から移植までの時間だけではありません。

例えば、採取関連の事柄に限定しても、移植毛の選択、移植毛の採取時に切断や挫滅損傷、トリミング時の切断や挫滅損傷など考えられます。

生着率に対してどの原因がどの程度影響を与えるかということを数値化することは難しいですが、移植毛採取に少しくらい時間がかかっても、移植毛の切断や挫滅損傷が無いよう丁寧に採取すれば、生着率にはあまり影響がないようです。

例えとして適当ではないかもしれませんが、高速道路で少しくらいスピードを出しても制限速度でゆっくり安全運転し場合と到着時間があまり変わらないというようなものでしょうか。ただその場合は、事故にあうリスクは段違いですが…。

 

とはいえ、ドナーロスを小さくするためには、丁寧に短い時間で採取することが大切になります。同じクオリティを保てるのなら、手術時間は短い方が良いことは明白ですから、技量の習熟による時間の短縮は大切な成果です。

ロボット植毛における自毛植毛の未来

ここ数年、医療界で広がりつつある手術支援ロボット(ダヴィンチ)を使った手術。この手術支援ロボットを使った前立腺癌や肺がん、膀胱癌、胃がんなどの手術は、皮膚切開が小さいため患者の体への負担が軽減され手術後の痛みも少なく、術後の回復が早いというのが大きな特徴で2018年には保険適応にもなり、今後更に増えることが予想されます。そうしたテクノロジーを導入したAiを搭載したロボットによる自毛植毛の手術が登場してきました。

これまでの自毛植毛手術は医師と看護師の熟練された技術で行われるチーム体制の手術方法で、後頭部の毛髪を皮膚ごと切り取り株分けし移植していく《FUT》と後頭部の皮膚を切らずに移植毛(グラフト)を1本ずつ吸引採取する《FUE》という2種類がありました。

このアメリカで誕生したAiを搭載したロボットを使用した自毛植毛手術は、コンピューターが採取する後頭部の画像をモニタリングチェック、コンピューターが髪の角度や密度、本数などを算出し毛根が切断されないようにグラフトを採取、医師が移植ホールを作り移植していくという方法です。簡単にいうと高い技術を必要とした後頭部からの移植毛の採取を、コンピューター制御によってより正確に短時間で多くの本数を採取し移植するというわけです。

 

しかし、このロボット植毛は本当に万能なのかという疑問があります。実際にこのロボット植毛と同じ方法に近いFUEという方法に比べると、後頭部から移植するためのグラフトを吸引採取する際に使用される筒状のパンチは、通常口径が0.85mm〜1,0mmに対しロボット植毛の場合口径1.2mmと大きなサイズのパンチを使用しています。つまり、後頭部のグラフトをくり抜いて採取した部分に丸い疵痕が残るということです。通常のFUEによる採取方法でも丸い点のような疵痕は残るのですが、口径が0.8mmですので小さな丸い点状の傷なのですが、ロボット植毛の方が口径1.2mmと大きい為、大きな丸い疵痕が残ってしまいます。それと、手術後の仕上がりの満足度が低いということです。他の植毛クリニックへ“ロボット植毛を受けて満足できない方の相談が多い”ということです。

話を聞くと生え際のラインが不自然、植毛した部分の密度がスカスカで、植毛したとは思えないなど。他の方法に比べ人件費が少なく済むため費用はかなり安い設定になっているクリニックが多いようで、費用の安さとコンピューターで植毛ができるという理由で選ばれる方が多いそうです。

生え際や密度、仕上がりの自然さについては、美的センス、高い移植技術を持ち合わせた熟練の医師による手術に比べ、まだまだロボットの性能面では自然さ、美しさを実現できるまでには至っていないように思えます。手術支援ロボットによる手術は、患者の体への負担が少ない正確な治療ができるということが最大のメリットです。

将来更に改良されAiで様々な情報を学習、アップデートされた植毛ロボットが登場し、人の手による自毛植毛手術と比べても遜色ない仕上がりが実現すれば、自分の希望通りの仕上がりが、今よりももっと安い費用で受けられるかもしれません。ですが、今のところ豊富な経験と熟練された技術・美的センスを持つ医師には敵わないのではないでしょうか?